独居高齢者(単独世帯生活者)に対する当院アンケート調査から

問題意識

 

 私が千葉西総合病院で「地域医療部長」として在宅医療を始めたのは平成5年で、それからもう11年以上になります。病院時代は文字通り24時間態勢で在宅患者さんに何か問題が起これば、直ちに入院管理できましたし、MSWを介して他の病院なり施設なりを紹介でき、選択肢の多い管理が可能でした。平成11年1月「どうたれ内科診療所」を開設しましたが、それからも他の病院や施設のご協力を頂きながら細々とではありますが在宅医療を展開してきました。開業してからはむしろ患者さんとより緻密で継続的な在宅医療が可能でありました。

 しかし、このいずれでも独居老人・高齢者世帯(以下、独居高齢者)の問題はいつもありました。そうした方々は、日常診療の場では、患者さんがいつのまにか来院しなくなり後で施設に入所されていたり、紹介した病院から施設入所されていたりで、患者さんの「最終局面」で関われないもどかしさを感じることがありました。在宅医療の場でも、独居の場合わずかの医療的問題や生活上の支障で、たちまち施設入所に導かれる事も多く経験しました。

 厚生労働省によると、平成15年6月時点で「65歳以上の者のいる世帯」は1727万3千世帯(全世帯の37.7%)となっています。その内訳は、「単独世帯」が341万1千世帯(19.7%)、「夫婦のみの世帯」が484万5千世帯(28.1%)、「三世代世帯」が416万9千世帯(24.1%)です。「単独世帯」及び「夫婦のみの世帯」の割合が次第に増加し、それぞれ全世帯の7.4%、10.6%を占めています。なお「単独世帯」のうち「女の単独世帯」が77%を占め圧倒的に女性の一人住まいが多いという数字が出ております。

 核家族化の進行で、「老々介護」が多くみられ、その片方が重症化あるいは死亡という局面で直ちに独居となり、施設入所が身近な問題となります。 

 さらに現代は、生活スタイルや価値観の変化から未婚者の増加・少子化の進行で、独居高齢者は今後ますます増加されることが予想されます。2015年には、「高齢者の独居世帯」は約570万世帯、「高齢者夫婦のみの世帯」も約610万世帯となると見込まれています。巨額の費用をかけて施設を作っても正に「焼け石に水」の状態なのは明らかです。また、最近ではこの施設入所も必ずしも「最後の安住の地」ではない報告も目立ちます。

 以上の経緯から「独居老人を(施設入所という解決法ではなく)地域で支える視点が必要」、「そのためには何が必要なのか?」、「医療・福祉の専門職に何が出来るのか?」、「お金に寄らず知恵とアイデアを発揮し何か出来ないか?」ということが私の最大の関心事でした。

 おりしも、6月5日、松戸市民会館で、松戸市・松戸市社会福祉協議会の主催で、「孤独死を考えるシンポジウム2004」の会が市民1200名の参加で盛大に開催されました。 

 私の診療所に近接した「常盤平団地社会福祉協議会」は、この孤独死予防に積極的に関わり7月22日には松戸市公認で「孤独死予防センター」を設立するに至っております。30-40年前に、全国に作られた公団の団地は今や高齢化の真っ只中で、独居・孤独死の問題と直面しており、常盤平団地はその先端で解決法を模索しています。

 以上の問題意識で、今回、医療提供サイドとして高齢独居で生活されている方々に、具体的に何が必要とされているのかを当院に通院されている方々にアンケート調査を行いました。

 

方 法

 アンケート調査は6月18日から約1月半、当院通院中または在宅ケア実施中の患者さんを対象とした。この期間当院に主に慢性疾患で定期的に通院された世帯数は約772件(在宅ケア対象世帯数 38件)であった。このうち独居生活者は総計96人で、全体の12.4%であった。65歳未満は7人で、65歳以上の独居高齢者は89人で65歳以上は全体の11.5%であった。前述した「単独世帯」の比率が7.4%であったことから、今回のアンケートの結果では、「定期的に通院されている患者さんの中では、独居生活者の比率が高い」という印象であった。平均年齢は76.1歳(47歳~91歳)、65以上の89人の平均年齢は77.5歳であった。96人の内訳は、男性 16人、女性 80人で、「女性の一人住まい」が83%を占めた。

 

アンケート内容と結果 

 (以下の結果は65歳以上の「独居高齢者」のみ、89人の回答に基づいたものです。) 今回のアンケートでは特に団地の高齢化や「孤独死」が問題となっている点もあり、住居をあらかじめ質問した。その結果は、団地在住が31人、団地以外に在住が58人(うち施設入所者10)、また在宅ケア中で独居の方は7名であった。

 
1 生活面や健康面の意識をご質問します。

① 特に不安はない 30  ② 普通 32  ③ 不安がある 26

特にどういう点に不安がありますか?(                      )

 「生活面や健康面で不安がある」という方が3分の1で予想したより少ない結果であった。「独居老人=孤独で不安があり援助が必要」という見方は必ずしも全てにあてはまらないようである。患者さんの中には「これまで夫の世話で苦労してきたが、やっと一人になれた」とか「一人暮らしになってから生き生きとされている」という印象の方もおられる。しかし、経済面や健康面で特に困らない状況ではそうであっても、実際疾病の増悪やアクシデントで生活サイクルが一度狂えば、「気ままな一人暮らし」も大きな困難を迎えるのが実情である。


2 病気等で困ったときに手助けしてくださる方はいますか?また、手助けしてくださる方はどなたですか?

① いる  a 家族 43  b 親族 14 c その他 15 ②いない 16 

 一口に独居老人といってもその形態は多彩である。隣に子供夫婦が住んでおり、実質的には、3世代家族という方もおられる。また、電話1本で子供や親類や隣人が直ちに集まりうる方もおられる。しかし、中には「子供はたくさん居るが遠くに住んでいて役に立たない」とか、「親族とは言っても名ばかり」とか、「本当に独りで誰も頼りに出来る人はいない」という方まで、バリエーションがある。そして「困ったときに手助けとなる」方が全くいない方が16人(18.0%)と5人に1人の割合で、この方々に関しては特に恒常的な援助システムが必要と考えられた。


3 何かの際、緊急連絡先の電話番号は?

どなた?(     )電話番号は?(       ) なし 2

 ほとんどの方は、緊急連絡先があると答えられた。この情報は入院患者さんでは必須の情報として取り扱われている。しかし、通常の外来患者さんについてはカルテに特に記載されない項目である。かかりつけ医として接する医療機関ではこの「緊急連絡先」を特別に伺い、カルテに特記する意味合いが極めて大きいと考えられた。実際、アンケートの場でおよそ23人、26%がこの「緊急連絡先」の電話番号や住所を直ちに答えられず、常日頃から聞き取り調査をする必要があると考えられた。

 

4 現在何らかの市や介護保険のサービスを受けていますか?

①受けていない 61 ②受けている  24  

 独居高齢者は上記のごとく意外とサービスを受けておられなかった。これはもちろん独居可能な方であるのでそれだけ「独立心やプライドが高く自立可能」と言える面もある。しかし、独居では「受けられるサービスに関する情報が不足がちである」、「サービスを受けるまでの手続きが煩雑である」などの事情もあると推定される。「独居高齢者のお世話係」="おせっかいな人"や"善良な隣人"がしっかりカバーする体制が整えばより広範な公的・私的サービスを活用可能と考えられる。 

 実際、先の「困ったときに手助けとなる方がいない」16人では、「サービスを受けていない方」が12人、7割5分に達していた。これは「お世話をする人」が存在しないがために可能なサービスも受けられない状況が推定される。

 

5 病気等で困ったときに相談する会や組織がありますか? 

①ある 24(自治会・町内会  社協  老人会  その他) ②特にない 55 

 この質問は既存の「地域の力」、「ご近所の底力」を聞いたものである。7割の方がこうした「公的な会や組織」をあてにはされておられなかった。既存の組織の限界を示すものであろう。逆に3割の方が「相談可能」と答えられている点はむしろ「予想以上」なのかも知れない。当院が、孤独死問題に積極的に取り組んでいる「常盤平社会福祉協議会」に近接して存在する事の影響であろうか。

 

6 あなたは当該地区の民生委員がどなたかご存知ですか? 

①知っている 36  ②知らない 51 


7 民生委員とお話ししたことがありますか? 

①はい 33   ②いいえ  55 

 民生委員は,「生活に困っている方、障害のある方、児童、高齢者、ひとり親家庭などで、いろいろな悩みをもっている方々の相談相手」で、また「地域住民と関係行政機関とを結ぶパイプ役として、地域住民の福祉の向上に努める奉仕者」という性格である。高齢者も対象としているが、これまでの経過からどうしても「生活保護に関する相談や助言」という役回りの面が強い。また、守備範囲は広いのだが、「報酬」も少なく仕事への関わりの度合いはあくまでもその個々人の献身度に依拠している。

 以上のように、民生委員は必ずしも独居老人に対応した役割を与えられていないので、上記の結果は現状では止むを得ないものかもしれない。一般に、「民生委員のレベルも格差が大きい」との評価もあり、「他人のプライバシーを言いふらす人がおり、余り信頼できない」との声もある。新たに民生委員に独居老人を対応させる場合には、その「教育」や「研修」が必要であり、また現在松戸市「高齢者支援連絡会」が作っている「相談協力員制度」の活用が期待され、同時に地域住民の理解も必要と考えられる。

 

8 当院では、独居の方への対策として、あらかじめ民生委員に院長の携帯電話の番号をお知らせしておき、独居の方に緊急事態が発生した場合に、24時間連絡できる態勢を作ろうかと考えています。これに関して、いかがお考えですか?

①助かる 59  ②特に必要ない 19 ③その他の考え 4 

 現在、在宅ケアを行っている医療機関は多くが「24時間連携」をとっており、このシステムを活用し、独居老人と在宅の診療所を携帯電話で"間接的に"結ぶ事を考えた。

 この設問が上記のごとく独居老人には余りなじみのない民生委員を通じた連絡体制を想定したためか、思ったほど高率の支持を得られなかった。もちろん、「そういう体制だと大変助かる」との声も多く聞かれたが、これは意外な結果であった。前述したように、独居の方はそれなりに完結した充実した生活を送られている方もおられ、差し迫った困難が無かったためかもしれない。

 そうは言っても、7割以上の方々が「この連絡態勢があると助かる」と回答されており、無理のない態勢がとれるのであれば、医療機関としても検討に値すると考える。医療機関の側としては、こうした独居高齢者に関する簡単な医療情報をまとめておくという追加の作業が必要であろう。 

 なお、この質問で「間接的な連絡体制」にこだわったのは、「直接的な連絡体制」だと些細なことで連絡が頻繁に入ることが予想され、医療機関の負担が多大になると考えたからである。


9 緊急の際に病状を説明するため、当院が「かかりつけ医」である事を示すカードを作ろうかと考えていますが、どのように感じますか?(カードは診察券とは異なった大きなカードで、例えば電話のところに置いておき、他の人が見たら当院に連絡していただくものです。)    

 ①助かる 83  ②特に必要ない 4 ③他に特にこうして欲しいという考えは? 0 

 この質問では、予想以上に①に高率の支持(93%)を得た。こちらとしてはB4版くらいの大きなカードで室内-電話の近くに置くものを想定した、しかし、具体的な聴取では患者さんは「外出先で倒れた場合などに役に立つ」として、通常の診察券以外に「かかりつけ医を明示した携行可能な小型カード」を希望された方が多かった。 

 考えてみれば、今日患者さんは「診察券」も多種類持参されており、「かかりつけ医」としての双方の自覚も食い違っている場合もある。他の大病院の「マイナーの科」にかかっておられ、こちらがかぜ程度でしか診ていなくても「かかりつけ医」としてとらえられている方もおられる。また、他方病院に救急搬送された場合、このようなカードを持参されていれば、病院サイドとしても「かかりつけ医」を直ちに認識できるという利点がある。 

 独居老人に関しては、双方が「かかりつけ」の意識を再確認する意味でもこうしたカードをお渡しすることは有効と考えられた。

 

10 松戸市や他の職種に特に希望される事はありますか?

①郵便屋さんやの新聞配達員の定期的なチェック 3

②緊急通報装置の配布 11

③ゴミ出しの援助 4   

④相談協力員など町内の方の定期的な訪問 4

⑤その他 3 (市からの定期電話 安全協会からのチェック 配食サービス) 

 これらの項目は、この間各所で検討され試みられて来た「独居対策」を羅列したものである。このアンケート全体の質問総数が多くかつ設問自体が煩雑であったためか、この設問では多くの回答を得られなかった。いずれにせよ、「少ないコストで効果が大」というアイデアを考案し工夫することが大切と考える。

 

結 語 

 今回、当院で管理している慢性疾患患者さんの世帯のうち12.4%を占める独居生活者にアンケート調査を行い、その大半を占める独居高齢者に対する結果を考察した。 

 結果をまとめると、「女性の単独世帯」が多く、約3分の1で生活や健康上の不安を訴えられたが、3分の2では特に訴えが無かった。約2割の方が「頼りになる方」を身近に持たず、緊急連絡先を持たない方もおられた。中には「緊急連絡先」が直ちに答えられない方も数多く見られた。7割の方は既存の介護サービスを受けていなかった。 

 町内会や自治会・社協など既存の会を相談先として可能とされた方は、約3割だった。 

 独居高齢者では民生委員に対する期待は薄くまたなじみも薄かった。医療機関がとっている「24時間連携態勢」の活用は7割以上で歓迎された。さらに「かかりつけ医を明示するカード」を作成し各人に手渡すという方策に関しては、9割以上で支持・要望された。
 

 以上の結果を元に、各医療機関に下記の具体的提案をお示ししたい。

① まず外来患者さんの緊急連絡先を外来カルテに特記し、それを通して、独居高齢者をピックアップしておくこと

② 各医療機関では独居高齢者の疾患や特徴を簡潔に記載したリストを特に作っておく

③ 地区の民生委員や相談協力員と「在宅ケアを実施している医療機関」が、かかりつけの独居高齢者に関して携帯電話等でコンタクト可能としておくこと④独居高齢者に「かかりつけ医を明示するカード」を作製し携行して頂くこと

④ 救急病院には「かかりつけ医カード」を持った患者さんが受診した場合、速やかに「かかりつけ医」にその旨連絡していただき、医療情報を交換し診療に役立てて頂くこと
 

 以上のように、「現在通院されている独居高齢者」を医療機関としても積極的に管理する視点は重要と考える。また、こうした方策を医師会としても統一的に取り組んで行くことが地域社会に貢献する1方法と考えます。 

 独居高齢者の方では、もちろん「通院されていない独居の方、独居ゆえに通院できない方、通院されていたが中断せざるを得ない方」もおられると考えられる。例えば高血圧や糖尿病・肝臓疾患などを抱えながら、独居ゆえに放置されている方もおられると推定される。地域の方々と結びつき、これらの方々に対策を立ててゆく事も今後の課題と考えられる。 

 なお当院では、これらの独居生活者が1年後、2年後あるいは5年後、どのように推移して行くかを今後も見守って行こうと考えています。

 

参考文献 厚生労働省 統計調査 平成15年 国民生活基礎調査の概況http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa03/index.html

 

「終の住処求めさまよう人たち」  アエラ04.9.13 p30-32民生委員について  http://www2.shakyo.or.jp/zenminjiren/